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2006年6月 1日 (木)

思い出のリヤカー押し

Umitosora27 私が、小学4年生だった昭和45年前後、そのころの沖縄では、多くのオジーやオバーたちが、自分の家で豚を飼っていました。

彼らは、毎朝まだ夜も明けやらぬころに、一軒一軒の家をリヤカーを引いてまわっていました。

家や飲食店から出た前の日の残飯を、飼っている豚たちのために集めていたのです。

それぞれの入り口には、ふたのついたブリキの缶がおかれてありました。

オジーやオバーたちは、その缶に入った残飯をリヤカーの大きな缶に移し、それから重いリヤカーをかわいい豚たちのもとへと引いていきました。

私の家の近くにもそのようなオジーがいました。そのオジーが毎日通る私の実家の前には、美しい一本松のある泉の方角に向かって緩やかな長い坂がありました。

緑に囲まれてとても風情のある坂ですが、そのオジーにとっては、リヤカーを引いて行く際の最大の難所でした。

ある夏休みの早朝、ラジオ体操へ向かう私の目の前を、そのオジーが重いリヤカーを引いてその坂を上りかけています。

とっさに「手伝ってあげなければ!」と思うのですが、周りの目が気になり動けません。

心の中で迷う内に、年少の一人の少年が一目散にリヤカーに向かって走って行きました。

そしてすかさず顔を真っ赤にしながら「よいしょ、よいしょ」とかけ声をかけながらリヤカーの後を押し始めたのです。

リヤカーが軽くなったのに気づいたオジーは、立ち止まって後ろを振り返り、とても嬉しそうに「ぼうや、ありがとうね~」とその子にとても優しい声をかけました。

私はその少年の勇気に感心しながらも、結局最後まで気持ちを行動に移せませんでした。

幼心に自責の念が残りました。

その光景が一日中頭から離れませんでした。

そしてその晩決心しました。

翌朝、同じ時刻にオジーはやって来ました。

私はその少年と2人で、リヤカーを坂の頂上まで押していきました。

できるだけ人と目を合わさないように「よいしょ、よいしょ」と小さなかけ声をかけながらリヤカーを押していきました。

リヤカーが軽くなったのに気づいたオジーは、昨日と同じように立ち止まって後ろを振り返り、とても嬉しそうに「ふたりとも、ありがとうね~」ととても穏やかな声をかけました。

その笑顔が最高に輝いていて、心がとても温かくなりました。

それから夏休みの間中、毎日リヤカー押しは続きました。

日が経つにつれ、リヤカーを押す子供たちの数が次第に増えていきました。

オジーの嬉しそうな顔はさらに輝いていきました。

このリヤカー押しは、私たちの毎年夏の特別な行事になりました。

でも3年後、そのリヤカーとオジーの姿は突然見えなくなりました。

名前もどこに住んでいるのかも分からないオジーは、亡くなってしまったのか、養豚を止めたのか私たちには分かりませんでした。

「あのおじいちゃん、どうしてしまったのかな……。なんだかつまんないね……。」

ため息混じりに話すみんなの声は、心なしか元気がありませんでした。

私たちの夏の恒例行事は、その年からなくなってしまいました。

でも、お互いの心に芽生え、大きくなった固い友情は、その後いつまでも温かく続いていきました。

あれから30数年を経た今、私の実家の前の道は、アスファルトになりました。

そばにはたくさんの新しい家が建ち並び、昔の面影はわずかに残るリュウキュウマツを含めて、ほんの少しだけになってしまいました。

でも、そのゆるやかな長い坂を見るたびに、オジーのうれしそうな笑顔が、温かな良き思い出として蘇ってきます。

また、一緒にリヤカーを押したあのなつかしい仲間たちの輝いた笑顔が、重なって蘇ってくるのです。

温かな心で深く思いをめぐらせる中、自分たちが助けたと思っていたあのオジーから、本当はたくさんの元気と大切な宝物をいただいていたことが、今になってよく分かります。

そしてあの勇気ある少年と心やさしい仲間たちとともに、オジーへの感謝の気持ちで一杯になります。

そして、その温かな感謝の気持ちを込めて、心の中で短歌を詠み、今は亡きやさしいオジーへ捧げました。

 「残飯の 山と積まれし リヤカーの 後押す子らの 心は温し」



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